久しぶりに、20年以上前にヨーロッパを放浪したときの話をしようと思う。
まだ20代半ばのころ、私は半年間ヨーロッパを放浪していた。特に帰る期限は決めずに、気持ちの向くままあちこちに行って、お金が尽きたら帰ろうと思っていたのだ。
ヨーロッパを訪れる前は、ニュージーランドにワーホリ(ワーキングホリデー)ビザで一年滞在していた。そのときにオーストラリアにも旅行したのだが、そこで知り合った欧米からの旅人たちを訪ねてみたいなと思ったのも、ヨーロッパを放浪先に選んだ理由のひとつだった。
あるときスイス人の知り合いを訪ねたことがあった。家に何日か滞在させてもらったのだが、ふとした会話の中で彼女のお父さんがこんなことを呟いた。
「ドイツ人はスイスに来てもドイツ語を喋る。たしかに私たちはドイツ語がわかるけど、でもここはスイスなのに。」
スイスについて少し説明しておこう。スイスはドイツ、フランス、イタリアと国境を接している。それもあってか、スイスには公用語が4つある。スイスドイツ語、スイスフランス語、スイスイタリア語、そしてロマンシュ語だ。地域によってことばが違い、一番広く使われているのがスイスドイツ語。
一般的な(?)ドイツ語は「標準ドイツ語」と呼ばれる。それに対して「スイスドイツ語」はいわばその方言のようなものなのだが、「標準ドイツ語」とはだいぶ違うらしい。
そのお父さんはいかにもおもしろくない、といった感じだった。それを聞いてふと思ったのは「そういえば、日本人も一昔前に、同じようなことを中国とか韓国でやってたんじゃなかったっけ?」ということ。
スイスでのそんな出来事からしばらくたち、私はポルトガルを訪れていた。あるとき、安宿で知り合ったバックパッカー何人かで、ヒッチハイクで海辺へ出かけたことがあった。その帰りに車に乗せてくれた女性が、やはりこんなことを口にしたのだ。
「スペイン人はポルトガルに来てもスペイン語を話すから好きじゃないわ。」
ん?デジャブ?前とまったくおんなじだ。
もちろんこの女性の感覚が、ポルトガル人の一般的な感覚なのかどうかはわからないのだけど、少なくとも彼女がそう感じていたことは事実だ。
お隣さんとの関係って、どこもけっこう複雑なんだな。日本と韓国・中国の関係が特別ってわけじゃないんだ。
もちろん背後には、それぞれの歴史的背景があるんだろう。でも民族や文化が違っても、人間の感情って根っこに流れている部分は同じなんだな、と妙に納得したのだった。