知らない街に行くと、あてもなくぶらぶらと歩くのが好きだ。この時もソウルで路地裏探検をしながら、ガイドブックでみた「汗蒸幕(ハンジュンマク)」を探していた。「汗蒸幕」というのは韓国の伝統的なサウナで、どうやらここでアカスリもできるらしい。韓国に行ったら一度はやってみたいと思っていた。
訪れたのは20年前。ソウルの街中の看板は当たり前だけどハングルであふれていて、お目当ての店があってもなかなか見つけられないこともしばしばだった。漢字や英語ならまだどんな店なのか推測のしようもあるが、ハングルとなるとお手上げだ。文字を逆さまに書かれたとしても、多分私には分からないだろう。
その時もたどり着いたらラッキーくらいの気持ちで歩いていた。市場のような細い路地裏に迷い込み、韓国語が飛び交う雑踏を奥へ奥へと進む。初めて嗅ぐ匂い。見なれない食材が吊るされた店の軒先。こういうカオスな雰囲気が旅を実感させてくれる。
この時は運よく、お目当ての汗蒸幕に行き着くことができた。生まれて初めてのアカスリの店は、どうやら観光客がよく来るようなところではなかったようだ。店内も地元感満載で、外国人らしき人など一人もいない。
中に入ると湯船があり、隣接してアカスリエリアらしきところがある。きっとその時の私は伝統の汗蒸幕も体験したんだろうけど、アカスリの印象があまりにも強烈すぎて、もうそれしか覚えていない。
ベッドに横になると、アカスリおばちゃんのなすがまま。もちろんこちらはすべてをさらけ出している。とにかく全身くまなく、表も裏もスリスリされたと思う。最初は恥ずかしい気持ちしかなかったが、だんだん開き直り、最後はもう「何でもこい!」って感じ。
終わったときには身も心も清々しかった。おばちゃんはただひたすらアカスリの任務遂行に忙しかったし、会話らしい会話をした覚えもないのだけど、終わる頃にはおばちゃんに密かに親近感すら覚えていた。何しろおばちゃんはもう私のすべてを知っているからね。
常連らしきおばちゃんたちのネイティブ感あふれる韓国語の会話を聞きながら、最後に受付に立ち寄る。
すると受付おばちゃんが私に何かを手渡してくれた。
ヤクルト!
え?なんでヤクルト??
頭の中がまたカオスになりながらも、一瞬で飲み干す。アカスリのあとにはサイコーのドリンクだ!ちょっと物足りないところがまたいい。
そのヤクルトが、いつも最後にお客に渡しているものなのか、それともたまたまその時にあったからくれたものなのかは分からない。でも少なくとも、私が外国人であることは分かっていたはず。
その私にさりげなくヤクルトをくれたのがなんだか嬉しくて、やっぱり来るならこういうディープなとこよね!とあらためて思ったのだった。
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